モンダイな文章を推敲で解決する「勝手にビフォーアフター」。
今回お届けするのは、
民営化以来、とても営業熱心になった「郵便局」からのお知らせの一部。
「年賀状のご予約はお早めに~」というていねいなレターの最後に、
こんな結末が待っていようとは……。
【Before】
皆さまのますますのご健勝とご健康をお祈り申し上げます。
はてさて、
「ご健勝」と「ご健康」
どこがどう違うのでしょうか――。
【推敲のポイント】
まずは例によって、
大辞泉さんに教えを乞うことにします。
けん‐しょう【健勝】
[名・形動]健康で元気なこと。また、そのさま。すこやか。
多く手紙文で、「ご健勝」の形で用いる。「ご―のことと存じます」
(大辞泉より)
なるほど、
【健勝】の意味が「健康で元気なこと」「健やか」なら、
【健康】との違いは、どこにあるのでしょう。
もうひとつ、調べてみましょう。
手元の『岩波 国語辞典 第四版』で「健勝」を引くと、
こんな記載があります。
けんしょう【健勝】[名]健康がすぐれて元気なこと。すこやか。
→手紙文で「御」をつけて相手や第三者に使う。
ここでもやはり「健勝」とは、
健康がすぐれて元気。すこやか――。
「健康」との違いを探し出すほうが難しそうです。
ちなみに、
『岩波 国語辞典 第四版』の「健康」の項には、
けんこう【健康】[名]すこやか(さ)。~以下略
と、記載があります。
「健勝」=「すこやか」
「健康」=「すこやか」
やはり、
この2つに決定的な違いを見出すのは困難と思われます。
これらのことから、
せっかく郵便局さんに祈っていただいたのですが、
・ご健勝
・ご健康
残念ながらこれらは「重複している」と言わざるを得ないのです。
【After】
皆様ますますのご健勝をお祈り申し上げます。
<着眼点>
「皆さま」→「皆様」としたのは、
「皆さまますますの~」の読みづらさを解消するため。
逆に「ますます」→「益々」とするなら、
「皆様益々の~」より「皆さま益々の~」とひらがなのほうが、
見た目は優しくなりますね。
また、「皆様のますますの~」
と、「の」を重ねたくなるところですが、
音読した感じ(=文章の流れ)がギクシャクします。
ここでは「皆様ますますの~」の響きに軍配があがります。
【今後へのメモ】
「ご健勝」という言葉は、どちらかといえば、
手紙の前半で活躍することのほうが多いかもしれません。
ご存じのとおり、
「~ますますご健勝のこととお喜び(慶び)申し上げます」
というフレーズです。
それにしても、
喜んだり祈ったり、日本の手紙はタイヘンです!
こうした、ある種の「様式美」に気を配るのであれば、
その分の(膨大な?)エネルギーを、
「相手への気遣い」に注いだほうがよいと思うのですが……。
最後になりましたが、
家内も私も、郵便局には長くお世話になっています。
(今年も年賀状を購入します!)
ありがとうございました。

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