推敲百話【27】「“させていただく”ツアー」の巻

モンダイな文章を推敲で解決する「勝手にビフォーアフター」。

今回お届けするのは、

昨日の夕刊に掲載されていた「旅行」の広告の一部。

宇宙人と呼ばれた元首相から若手ビジネスパーソンまで、

多くの日本人が使うとされる「あのフレーズ」の登場です。

失礼ながら“勝手に”推敲いたします。
ていねいな表現も、過剰になると……

『歩くこと』に配慮させていただいております。

『おトイレ休憩』に配慮させていただいております。

『使いやすい施設』を使用するよう配慮させていただいております。

『バスの定員』に配慮させていただいております。

ゆったり行程に配慮させていただいております。

 

【推敲のポイント】

「~させていただく」は、

「~させてもらう」の謙譲表現。

文化審議会国語分科会がまとめた「敬語の指針」によると、

以下の条件を満たす場合に使われる――とされています。

 

基本的に、自分側が行うことを、

ア)相手側または第三者の許可を受けて行い、

イ)そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちがある。

 

ややこしいですね。実例を見てみましょう。

 

たとえば、

貴重な文献なので、相手の許可を得たうえで、

「念のためコピーで複写させていただく」という表現。

→相手の許可を得て、「ア=○」

 貴重な情報を得るという恩恵を受ける。「イ=○」

 

体調が悪く、部長に断りの電話を入れたうえで、

「自宅で静養のため、直帰させていただく」という場合。

→相手の許可を得て、「ア=○」

 体調回復という恩恵を受ける。「イ=○」

 

これらの用法は“お上”の指針にも合致していると考えられます。

では、例文はどうでしょう。

 

「『歩くこと』に配慮させていただいております」

→旅行会社が申し込む人に許可を得て配慮するか?「ア=×」

 配慮によって恩恵を受けるか?「イ=○」

 ※配慮に賛同した人がツアーに参加すれば旅行社が恩恵を受ける。

 

結果は、「ア=×」「イ=○」。

胸を張って「正しい使い方」とは言えないようです。

 

ところが、この「指針」をさらに読み進むと、

こんな表記が目にとまります。

 

なお、ア)、イ)の条件を実際には満たしていなくても、

満たしているかのように見立てて使う用法があり、

それが「させていただく」の使用域を広げている――。

 

「………?」

結局は「なんでもアリ」ということなのでしょうか。

 

先の例文にしても、

「この広告を読む行為」=「配慮するツアーへの理解・承認」

見立てれば、

「させていただく」も許容されることになるようです。

 

しかし、仮に許容されるにしても、

この「連続使用」には問題がありそうですね。

丁寧な表現も、これでは「くどい」印象になってしまい、

読み手が「好ましく感じる」かどうか、疑問が残ります。

 

【Before】

『歩くこと』に配慮させていただいております。

『おトイレ休憩』に配慮させていただいております。

『使いやすい施設』を使用するよう配慮させていただいております。

『バスの定員』に配慮させていただいております。

ゆったり行程に配慮させていただいております。

【After】

「歩くこと」に配慮いたします。

「おトイレ休憩」に配慮いたします。

「使いやすい施設」を使用するよう配慮いたします。

「バスの定員」に配慮いたします。

「ゆったり行程」に配慮いたします。

 

【今後へのメモ】

「配慮させていただいております。」を

すべて「配慮いたします。」に置き換えたカタチです。

確実に好感度はアップしそうですが、

「配慮」「配慮」「配慮」……のモンダイは残ります。

 

「お身体にやさしい旅~5つのポイント」

①「歩く」行程は無理なく

②「トイレ休憩」は60分に1回

③……

など、「配慮」を使わない、

具体的な表現に切り替えてあげるべきかもしれません。

 

それにしても、日本の敬語というヤツは実にやっかいです。

体で覚えていることでも、

あらためて文字で説明するとなると、いやはや難しい。

 

最後までお読みいただき、

ありがとうございました!


>>推敲百話【26】「地球に優しい環境」の巻へ

>>推敲百話【28】「スッキリしないN経TEST」の巻へ

◆次回セミナー

公開講座のご案内は、こちらにございます! 

◆赤羽博之のFacebookページへ

https://www.facebook.com/hiroyuki.akabane

◆著書のご紹介

すぐできる!伝わる文章の書き方 赤羽博之・著

日本能率協会マネジメントセンター・刊 1,300円+税

講演・研修、文章講座の

ご相談、ご依頼などは…

◆著書のご紹介

『すぐできる!伝わる文章の書き方』赤羽博之・著(日本能率協会マネジメントセンター)

すぐできる!

伝わる文章の書き方

赤羽博之・著

日本能率協会マネジメントセンター

1,300円+税

◆最新情報は

facebookで発信中

◆最新のブログ記事

大推敲!勝手にビフォーアフター

推敲百話【43】あなたの文章が“相手にされない”本当の理由
>> 続きを読む

推敲百話【42】「あなたの文章が読まれない意外な理由」の巻
>> 続きを読む

推敲百話【41】「荷物と修飾語は軽いほうがいい」の巻
>> 続きを読む

推敲百話【40】「澄むと濁るで大違い」の巻
>> 続きを読む

推敲百話【39】「日本語はむずかしい」の巻
>> 続きを読む

推敲百話【38】「環境省が地球温暖化を“推進”する!?」の巻
>> 続きを読む

推敲百話【37】「“温”と“暖”のややこしい関係」の巻
>> 続きを読む

推敲百話【36】「コピペで謝罪広告は危険!」の巻
>> 続きを読む

推敲百話【35】「胸を張って“なすりつける”と言えますか?」の巻
>> 続きを読む

推敲百話【34】「変身するプリンタ用紙」の巻
>> 続きを読む

Copyright by Ko-bunsha GK.

All rights reserved.