モンダイな文章を推敲で解決する「勝手にビフォーアフター」。
今回お届けするのは、
昨日の夕刊に掲載されていた「旅行」の広告の一部。
宇宙人と呼ばれた元首相から若手ビジネスパーソンまで、
多くの日本人が使うとされる「あのフレーズ」の登場です。
『歩くこと』に配慮させていただいております。
『おトイレ休憩』に配慮させていただいております。
『使いやすい施設』を使用するよう配慮させていただいております。
『バスの定員』に配慮させていただいております。
ゆったり行程に配慮させていただいております。
【推敲のポイント】
「~させていただく」は、
「~させてもらう」の謙譲表現。
文化審議会国語分科会がまとめた「敬語の指針」によると、
以下の条件を満たす場合に使われる――とされています。
基本的に、自分側が行うことを、
ア)相手側または第三者の許可を受けて行い、
イ)そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちがある。
ややこしいですね。実例を見てみましょう。
たとえば、
貴重な文献なので、相手の許可を得たうえで、
「念のためコピーで複写させていただく」という表現。
→相手の許可を得て、「ア=○」
貴重な情報を得るという恩恵を受ける。「イ=○」
体調が悪く、部長に断りの電話を入れたうえで、
「自宅で静養のため、直帰させていただく」という場合。
→相手の許可を得て、「ア=○」
体調回復という恩恵を受ける。「イ=○」
これらの用法は“お上”の指針にも合致していると考えられます。
では、例文はどうでしょう。
「『歩くこと』に配慮させていただいております」
→旅行会社が申し込む人に許可を得て配慮するか?「ア=×」
配慮によって恩恵を受けるか?「イ=○」
※配慮に賛同した人がツアーに参加すれば旅行社が恩恵を受ける。
結果は、「ア=×」「イ=○」。
胸を張って「正しい使い方」とは言えないようです。
ところが、この「指針」をさらに読み進むと、
こんな表記が目にとまります。
なお、ア)、イ)の条件を実際には満たしていなくても、
満たしているかのように見立てて使う用法があり、
それが「させていただく」の使用域を広げている――。
「………?」
結局は「なんでもアリ」ということなのでしょうか。
先の例文にしても、
「この広告を読む行為」=「配慮するツアーへの理解・承認」
と見立てれば、
「させていただく」も許容されることになるようです。
しかし、仮に許容されるにしても、
この「連続使用」には問題がありそうですね。
丁寧な表現も、これでは「くどい」印象になってしまい、
読み手が「好ましく感じる」かどうか、疑問が残ります。
【Before】
『歩くこと』に配慮させていただいております。
『おトイレ休憩』に配慮させていただいております。
『使いやすい施設』を使用するよう配慮させていただいております。
『バスの定員』に配慮させていただいております。
ゆったり行程に配慮させていただいております。
↓
【After】
「歩くこと」に配慮いたします。
「おトイレ休憩」に配慮いたします。
「使いやすい施設」を使用するよう配慮いたします。
「バスの定員」に配慮いたします。
「ゆったり行程」に配慮いたします。
【今後へのメモ】
「配慮させていただいております。」を
すべて「配慮いたします。」に置き換えたカタチです。
確実に好感度はアップしそうですが、
「配慮」「配慮」「配慮」……のモンダイは残ります。
「お身体にやさしい旅~5つのポイント」
①「歩く」行程は無理なく
②「トイレ休憩」は60分に1回
③……
など、「配慮」を使わない、
具体的な表現に切り替えてあげるべきかもしれません。
それにしても、日本の敬語というヤツは実にやっかいです。
体で覚えていることでも、
あらためて文字で説明するとなると、いやはや難しい。
最後までお読みいただき、
ありがとうございました!

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