モンダイな文章を推敲で解決する「勝手にビフォーアフター」。
久々の更新となる今回は、またまた新聞広告の登場です。
昨日、日経を読んでいると、
なんともスッキリしない広告の文面が目に止まりました。
“違和感センサー”が反応した問題箇所とは?
ビジネスに関する知識を知恵に活用する
「ビジネス知力」を測る日経TEST。
社員研修の教材や昇進昇格試験として活用することにより、
社員の能力を高め、企業価値を向上することができます。
【推敲のポイント】
着眼点は次の2つです。
【1】「ビジネス~」で始まる最初の文
・一文の中に情報が詰まりすぎている印象。
・「知恵に活用する」は、やや不自然な表現。
【2】「社員研修の~」で始まる文章の後半
・「こと」の重複により、回りくどい印象。
・「企業価値を向上することができる」は誤用。
――では、「一宿一飯の恩義」あるN経さんの仕事ではありますが、
心を込めて推敲を進めていきましょう。
【1】「ビジネス~」で始まる最初の文
一読して印象に残るのは、情報がぎゅうぎゅうに詰まった感じ。
原因を考えてみましょう。
実は、ひとつの文に複数の“主述の組み合わせ”的な要素があることが、
ぎゅう詰め感の原因です。
(要は、「ビジネス知力」の説明が長すぎるのです!)
つまり、この文で発信しようとしていることを分解してみると――。
・ビジネスに関する知識を知恵に活用するのが、「ビジネス知力」。
・その「ビジネス知力」を測るのが、日経TEST。
という“2段ロケット”構造になっていることが分かります。
本来なら、ひとつの文はひとつの意味、メッセージを伝えることに
徹したいところ。
これを一気に、一文で読ませてしまおうというところに、
少々無理があるようなのです。
同時に、「知恵に活用する」は不自然な表現。
「~知識を知恵として活用する」が、ごく自然な言い回しです。
【Before】
ビジネスに関する知識を知恵に活用する
「ビジネス知力」を測る日経TEST。
↓
【After】
日経TESTは、
仕事についての知識を知恵として活用する力、
「ビジネス知力」を判定します。
・「ビジネスに関する知識」→「仕事についての知識」
「ビジネス」の繰り返しを解消。
「関する」という硬質な表現を和らげました。
・ 全体を「日経TESTはビジネス知力を判定します」という
シンプルな流れに変更。
「測る」は「判定」と表現を換えました。
……いかがでしょうか。
文字数は増えましたが、全体の風通しが良くなり、
文意をとらえやすくなった、と感じていただけるでしょうか。
【2】「社員研修の~」で始まる文章の後半
全体に、モタモタした印象――。
主な原因は、
「~することにより、~することができます」と、
同じフレーズが不用意に繰り返されていることです。
この種の繰り返しは、文章のスピード感を損なう原因。
読み手はメッセージを受け取りづらくなります。
「企業価値を向上することができます」は、
↓
「企業価値を向上させることができます」
「企業価値の向上につながります」
などへの修整が必要ですね。
【Before】
社員研修の教材や昇進昇格試験として活用することにより、
社員の能力を高め、企業価値を向上することができます。
↓
【After】
研修教材や昇進昇格試験の問題として活用すると、
社員の能力開発、企業価値向上の一助となります。
・懸案の「~することにより、~することができます」を解消。
・「能力を高め~企業価値を向上することができる」は、
「~の一助となる」という表現にとどめました。
考えてみれば、
社員の能力を高め、企業価値を向上させ得る明らかな“根拠”は、
示されているとは言えないのです。
では、2つの文を合わせて眺めてみましょう――。
【Before】
ビジネスに関する知識を知恵に活用する
「ビジネス知力」を測る日経TEST。
社員研修の教材や昇進昇格試験として活用することにより、
社員の能力を高め、企業価値を向上することができます。
↓
【After】
日経TESTは、
仕事についての知識を知恵として活用する力、
「ビジネス知力」を判定します。
研修教材や昇進昇格試験の問題として活用すると、
社員の能力開発、企業価値向上の一助となります。
↓
日経TESTは、
仕事についての知識を知恵として活用する力、
「ビジネス知力」を判定。
研修教材や昇進昇格試験の問題として活用すると、
社員の能力開発、企業価値向上の一助となります。
・「判定します。」を「判定。」と体言止めに。
最後の「なります」との重複感の解消を狙いました。
・「日経TESTは」の直後の読点、
「ビジネス知力」の直前の読点など悩みは尽きませんが、
これらは今後の課題に……。
【今後へのメモ】
実際に広告原稿を作成された方は、
「最大文字数」という制限の中で、文章を練られたことでしょう。
このブログでは文字数は考えず、
あくまでも内容本位で推敲案をひねり出しています。
その意味では、やや“後ろめたさ”も感じます(笑)
今後、この種のサンプルを取り上げる際には、
【Before】の文字数にそろえて【After】を提示する――。
というチャレンジも、考えてみたいと思います。
ちなみに、N経での仕事を卒業した後も、
新聞は愛読し続けています!
ありがとうございました。

◆次回セミナー
◆赤羽博之のFacebookページへ
https://www.facebook.com/hiroyuki.akabane
◆著書のご紹介
すぐできる!伝わる文章の書き方 赤羽博之・著
日本能率協会マネジメントセンター・刊 1,300円+税