モンダイな文章を推敲で解決する「勝手にビフォーアフター」。
今回は、某レストランの入口で見かけた看板の登場です。
一見すると“突っ込み”を入れる余地がなさそうにも見えますが、
果たして違和感センサーは、どこに反応したのでしょう?
トマトソースが
美味しくなりました
【推敲のポイント】
あなたのご友人が、
有名なお寿司屋さんに行ってきたとしましょう。
こんな会話が想定されます――。
あなた「ねえ、どうだった?」
お友達「やっぱりねぇ、すご~くおいしかった!」
あなた「えっ、どんなもの食べたの?」
お友達「とにかく食べたもの、全部おいしかった!!」
あなた「……」
どうやら、会話は途切れてしまったようです。
さて、なぜあなたは“絶句”したのでしょう……?
次の3つの中からその理由をお答えください!
1.勝ち誇ったような態度が気に入らなかったから
2.「おいしい」はその人の主観。そのまま相手には通じないから
3.二日酔いのアタマに響く大音量だったから
<正解発表>
(ドラムロール~♪)はい!正解は「2」ですね。
「おいしい」「悲しい」「きれい」「すごい」「かわいい」など――。
その人の主観に基づく表現は、
(アウンの呼吸が確立されている“ごく一部の”ご夫婦などを除き)
そのままでは相手に正しく伝わらないと考えるのが原則です。
オスマン・サンコンさん(視力6.0)が言う「遠くに見える」と、
主に首都のビル街などに棲息する我々が言う「遠くに見える」では、
同じ「遠くに~」と言いながら、
その意味するところはまったく違う可能性が高い!
という理屈です。
では、どうすればよいのでしょうか。
答えは驚くほどシンプル。
そう! 具体的に話す(書く)――です。
「食べたもの、全部おいしかった!!」ではなく、
こんな話し方をしたら、どうだったでしょう。
お友達「大間から直送されたホンマグロのお刺身、
しょうゆの小皿にちょっと浸けただけで、
脂がサッと広がるの。
香りのいいワサビを乗せて口に運ぶと、
舌の上でアッと言う間に溶けてしまう感じ……。
すぐに深~い脂のうま味が押し寄せてきて、
それでいて、ぜんぜんクドさはなくて――」
あなた「……」
――どうやら、違う意味で“絶句”してしまったようです。
このように具体的に話す(書く)と、
実は、相手のアタマの中に「絵が浮かぶ」のです。
私たちは、人の話を聞いたり読んだりするときには、
自分の過去の経験ファイルの中から、
似たような場面を想像し、絵を思い浮かべるのですね。
そのことによって、
話した人、書いた人が経験した出来事を「追体験」するわけです。
では、美味しくなったトマトソースは、
どのように「推敲」できるでしょうか――。
【Before】
トマトソースが
美味しくなりました
↓
【After】
契約農家が育てた無農薬トマトを
半日煮込んだトマトソースです
いかがでしょう。
シュッとした元気なヘタのついたトマト、
煮込むための深いお鍋(ズンドウ)の絵が浮かびましたか?
トマトの甘酸っぱさや、
煮込んだ後のまろやかな味わいを、
少しでも想像できたら「具体化作戦」の成功です。
【今後へのメモ】
トマトソースが
美味しくなりました
というオリジナルを生かす道も、もちろんあります。
こちらには、文字数が少なく、
パッと目に入るというメリットがあります。
たとえば、
トマトソースが
美味しくなりました by イタリア帰りの料理長
いかがでしょう。
白いコックコートが目に浮かびましたか……?
こうして「主体」を明らかにしてあげれば、
「主観」も根拠を持つことができるわけです。
このレストラン、
今度、機会があれば伺ってみたいと思います。
(場所は川崎駅の近くです^^)
ありがとうございました。

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