推敲百話【35】「胸を張って“なすりつける”と言えますか?」の巻

モンダイな文章を推敲で解決する「勝手にビフォーアフター」。

久々更新の今回は投稿物件第6弾のご紹介です。

投稿いただいたのは、

英語力コンサルタントとしてご活躍の西澤ロイさん。

ありがとうございます!

消費税率が上がる年の初めにこんな話題を提供していただきました。

失礼ながら“勝手に”推敲いたします。
今年はこんな告知が増えそうです…

当社におきましても、

旅客運賃に消費税率引上げ相当分を

転嫁させていただくため、国土交通大臣に……(略)

 

【推敲のポイント】

お送りいただいた写真は東京メトロの車内に掲示された告知文ですね。

(→当方にてトリミング)

4月からの消費税率引き上げに伴い、

その分を運賃に反映させますよ! の宣言です。

 

西澤ロイさんのご指摘は、次のとおりでした。

「転嫁って、自分で言いますか?」

……なるほど。

「責任を転嫁する」で有名な「転嫁」という言葉は、

自ら発信、発言するべき言葉なのかどうか――という疑問でした。

 

確かに違和感があると私も思います。

ある種、ネガティブなオーラをまとった(?)言葉である以上、

感覚としては、

「本当はそのつもりではなかったけれども、

 結果として“転嫁”せざるを得なかった……」

といった風情で使いたいところですね。

 

ところが、この文面では、

「~させていただく」という丁寧な言い方ではありますが、

どこか「手続きさえ踏めば、転嫁は当然」という“本音”を感じます。

このケースでは「~させていただく」が、

結果として謙虚さではなく慇懃無礼(失敬!)に近い印象を

残しているのかもしれません――。

 

いっぽう、消費税を価格に反映することを「転嫁」と表現することも

企業社会や行政機関の中ではすっかり定着しているようで、

なんとも微妙な判定となりそうです。

 

――さて、この微妙な判定に決着をつけていきたいのですが、

今回はこんなことを考えてみました。

 

先ほど「転嫁」について“ネガティブなオーラをまとった”と

お伝えしたのですが、

言葉には「ポジ語」「ネガ語」が存在します。

(造語です。念のため…)

前者はプラス(=陽)の表現と相性の良いもの、

逆に後者はマイナス(=陰)の内容にマッチするものです。

 

それぞれが“逆”の文脈の中で使われると、

なんとも収まりの悪い雰囲気(=違和感)を醸し出すわけです。

 

ひとつ例をあげましょう。

 

以下は私が参加している、いわゆる「一口馬主クラブ」のHPに

競走馬の近況として書かれていた内容です。

 

マイネ○○○○○は、栗東に滞在中。今日31日(火)の追い切り後、左飛節に腫れが認められ、レントゲン検査の結果、軽い亀裂骨折が判明しました。正式な診断は年明けに下されますが、全治3ヶ月が有力。歩様に乱れがなく、手術の必要もない程度と見られていますが、予定していた1月6日(月)京都の芝1600mは回避することになりました。

 

※註「マイネ~」は馬の名前。

  「栗東」は競走馬のトレーニングセンター。

  「追い切り」はレース前の強めの調教。

  「飛節」は後ろ脚の関節で人のカカトにあたります。

 

レース前の競走馬は限界に近いところまでトレーニングするため、

脚部のケガはつきものなのですが、

このような出走直前のケガは関係者、出資者共に著しく落胆します。

 

そうした肩を落としている人が“カチン”とくる表現が

この文章には含まれています。

 

見つかりましたでしょうか?

そうです!「~有力」という言い方です。

 

「有力」という言葉は、たとえば、

・大学受験の有力校

・犯人逮捕に結びつく有力な手掛かり

・市長選の有力候補……など、

いわばプラスのニュアンスを含む文脈で使われる「ポジ語」

 

例文の場合、

「亀裂骨折~全治3ヶ月」という明らかに“悪い”知らせの中で、

「有力」というポジティブなオーラをまとった言葉が使われることに、

著しい違和感を覚えるのです。

 

このケースでは「有力」ではなく、

・全治3ヶ月の見込み。

・全治3ヶ月が見込まれます。

・全治3ヶ月が予想されます。

……などとすべきですね!

 

さて、こうした視点で、

先ほどの「転嫁」の是非を考えてみましょう。

 

「転嫁」は、

辞書に「自分の罪・責任などを他になすりつけること」とあるように、

本来は「ネガ語」に属する言葉。

冒頭述べたとおり「責任転嫁」がその代表的な用例です。

 

すなわち例文を少々意地悪く(?)意訳すると、

「旅客運賃に消費税率引上げ相当分を転嫁させていただく」

 ↓

「消費税率が上がった分を

 あなたが払う運賃になすりつけさせていただく」

が、実質的な意味であるということができます。

 

「~させていただく」という謙譲表現は使われているものの、

「なすりつける」というネガティブなオーラを放つ言葉は、

できれば言い換えてあげたい――が、当欄の結論です。

 

これはあくまでも感性の問題なのですが、

要は「胸を張って“なすりつける”と言えますか?」

ということですね。

 

【Before】

旅客運賃に消費税率引上げ相当分を転嫁させていただく……

【After】

旅客運賃に消費税率引上げ相当分を加算させていただく……

 

「転嫁」と比較していかがでしょうか。

「負うべき責任を他になすりつける」

というマイナスの印象は、いくぶん緩和されたと思います。

 

ちなみに、写真の「2行下」に見える、

「適正に転嫁」≒「適正になすりつける」のほうが、

もっと不自然に映りますね!

 

【今後へのメモ】

ここでは「転嫁」に換わる言葉として、

上乗せ、反映、そして加算などいくつかの候補が考えられますが、

当欄では素直に「加算」を選択しました。

もちろん「反映」とは“いい勝負”。

「上乗せ」は“上げ”との重複があり、やや冴えない印象です。

 

今年は年度内いっぱい、

この種の「告知」が多く貼りだされることでしょう。

“おかしな”物件を見かけられましたら、

ぜひ写真に撮って、当欄へお送りください!

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

本年もよろしくお願いいたします。

 

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