モンダイな文章を推敲で解決する「勝手にビフォーアフター」。
久々(!)更新の今回は、
4/26の日経紙面から、とある「謝罪広告」の一部をご紹介します。
謝罪広告は、言うまでもなく企業の命運を左右しかねない重要な文書。
法務、広報はじめさまざまなセクションのチェックが
特に慎重に行われているハズなのですが――。
深く御礼申し上げます。
【推敲のポイント】
今年の1月、「割烹着の美談」が話題にのぼって以来、
「コピペ」という言葉がすっかり市民権を得た感がありますね。
今回の物件も、
どうやらその「コピペ」の弊害が強く疑われるものです。
まずは、例文のどこが不自然なのか――。
皆さんもお気づきのとおり、日本語の「感覚」として、
「深く~」といえば「お詫び」が、
「御礼申し上げる」のなら「厚く~」が、
それぞれ自然な言い回しです。
すなわち、
「深くお詫び申し上げます」
「厚く御礼申し上げます」
これらは、無数に存在する「決まり文句」のひとつですね。
以下はあくまでも個人的な推測ですが、
どこからか「深くお詫び申し上げます」をコピペで持ってきて、
不用意に「お詫び」→「御礼」に差し替え、
「深く御礼申し上げます」
という不自然なフレーズを誕生させてしまったのではないでしょうか。
コピペではなく白紙の状態から書き始めたのであれば、
「深く御礼」で、書かれた方が違和感を抱かれるのではないか?
と、思うのです。
【Before】
深く御礼申し上げます。
↓
【After】
厚く御礼申し上げます。
ま、長く日本人をやっていると、
こっちの方が、より「しっくりくる」という感じですかね。
【今後へのメモ】
では、「深く御礼申し上げます」を「誤用」と言い切れるかどうか。
(一般的には「誤り」とするケースが多いようです)
これは、「誤用」とまでは言えないと“私は”思います。
たとえば、
「深く感謝申し上げます」は一般的に使われているフレーズですし、
「ご厚情に~」が前に来るケースを想定すれば、
「ご厚情に厚く御礼~」と言葉を重ねるより、
「ご厚情に深く御礼~」のほうが、むしろスッキリした印象です。
う~む。
幸か不幸か、日本語にはこうした決まり文句が多数存在します。
次の①~③を読むと、「なんかへん!」と感じられると思います。
いかがでしょうか?
①荒天のため、午後の飛行機が運休になった。
②部長には行きつけの病院がある。
③その高圧的な性格、何とかなりませんか?
チッチッチチチチ……
はい。回答例は以下のとおりです。
①運休→欠航
(空港の案内ボードでおなじみですね。バスや電車は運休です)
②行きつけ→かかりつけ
(行きつけは、飲み屋ですね!)
③性格→態度
(微妙ですが、高圧的~なら、態度のほうがしっくりきます)
これらは「正しい・誤り」というよりも、
「よりしっくりくる」あるいは、
「こうするのが普通」という慣習、もっと言えば伝統ですね。
慣習や伝統は、敵に回すと少々厄介(やっかい)。
口うるさい上司に、
「こういう言い方は、普通しないよね!」
などと、注意されたくないものです。
日頃から、
良質な新聞、良質な雑誌、良質なテレビ番組などに接しながら、
こうした「日本語フレーズ」を味方につけてしまいましょう!
最後までお読みいただき、ありがとう存じます。

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