推敲百話【45】「自分の常識は相手の“非”常識」の巻

愛読紙「日経」の楽しみのひとつは、

一面のコラム「春秋」。

ところが、この日は読み終えたとたん、

思わず声が出てしまいました。

 

「これ、アカンやつや!」

 

果たしてどこがどうアカンと感じたのか……。

せっかくですので、共有することにしました。

お役に立てば幸いです!

 

まずは、ご一読を……。

日本経済新聞2019年1月4日より引用させていただきました。
日本経済新聞2019年1月4日より引用させていただきました。

 

コラムの「命」~オチが意味不明!?

この日のモチーフ(題材)は今から20年前、1999年に59歳の若さで亡くなった落語家、桂枝雀さん。今は亡き師匠の芸風を取り上げながら、今日の高齢者の在り様について考える――という流れです。

 

ところが肝心なオチのところに、師匠がかつて落語の中で酒を注がれる所作などとともに用いていた台詞、「すびばせんねぇ」(=すべて鼻濁音;筆者註)を “そのまま” もってきてしまっているのですね(↑コラム最終盤をご覧ください)。

 

熱心な落語ファンならご存じかもしれませんが、果たしてどれくらいの読者に通じるのか……。余計なおせっかいは百も承知なのですが、編集者の感覚として心配になるのです。

 

少なくとも「志村けんの “アイーン” ほどにはポピュラーでない」が私の見立てです。

 

仮に、大多数の人が読んでも分からないものをオチに持ってきてしまったとしたら、コラムニストの仕事として、果たしてどうでしょう。「それを言い出したらキリがない!」が実際の現場感覚だとは思いますが、読み手には「何が面白いのか分からない」というモヤモヤが残ってしまいます。

 

もとより、すべての人に伝わる、笑ってもらえるようなネタなど存在しないことは言うまでもありません。要は「通じる、通じないの割合をどう読むか」だと思うのですね。

 

「すびばせんねぇ」でピンとくる、もっと言えばクスリと笑える人の割合、実際のところどうでしょう。500人~1000人に1人くらい? これをお読みの「あなた」はご存じでしたでしょうか……?

 

文章を書くときに誰もが陥る“わな”とは?

当然のことながら書かれた方は「桂枝雀といっても知らない読者がいる」という前提で臨んでいます。最初の段落を芸風の説明に割いているのはそのためです。

 

ご注目いただきたいのは、その直後。かつて取材したことがある旨、書かれていますね。これが事実だとすると、実は「すびばせんねぇ」の未消化感を誘発してしまう原因にもなるのです。つまり……

 

書く人=桂枝雀について、ものすご~く詳しい。

読む人=十分な事前知識があるとは言えない。

 

……両者の間には「絶望的な温度差」とでも言うべき、埋めようのない溝が生じるのです。

 

取材当日、目の前で師匠の肉声や存在に接した経験はもちろん、取材準備の過程では片っ端から資料を調べ、師匠の落語を聴き込まれた可能性が高いと思います。

 

これらを通じて、普通の人(=読者)以上に「枝雀ファン」になり、師匠の落語に精通されていくわけです。書くうえではもちろん必要なことなのですが、こうした状態で文章を書くとき、よほど注意してかからないと、誰もが「温度差による行き違い」を生んでしまいがちなのです。

 

このコラムでも「すびばせんねぇ」で締めるアイデアに多少なりとも迷いはあったと思います。が、最終的に「いける」と判断されたとき、「どれほどポピュラーか?」について温度差が作用してしまったように感じるのです。

 

書くときには小さい子を引率するイメージで!

一般に文章は「その分野に詳しい人」が書くのが通例。ところが詳しすぎるために生じる危険もあるのですね。読み手との情報ギャップ、温度差が大きくなるのです。

 

そこで皆さんにオススメなのが、「小さい子を引率するイメージで書く」です。子どもを連れて歩くときには、「ちゃんと付いて来ているかな…?」と、頻繁に後ろを振り返りますよね。文章を書くときもこれと同じ。「こう書いて、分かるかな?」と、何度も読み返すわけです。

 

そして何よりも、こう考えるようにしましょう。「自分にとっての常識は、必ずしも読み手の常識ではない」。さまざまな分野に秀でていらっしゃる方、詳しい方は、とくに注意していきましょう!


◆今日のまとめ
自分にとっての常識は、必ずしも相手の常識ではない。

文章を書くときには「これで伝わるか?」と、相手の視線で何度も読み返すことが重要。

 

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